小売業や卸売業を営む企業が遭遇する法的トラブルにはどのようなものがあるでしょうか。
まず、想定されるのが顧客との間のトラブルです。
小売業であれば顧客は一般消費者になります。
昨今、一般消費者とのトラブルで注意喚起されているのが、いわゆるカスタマーハラスメントです。
顧客からの不当な言動により従業員の就業環境が害されるカスタマーハラスメントを放置すれば、顧客との間のトラブルが解決しないだけでなく、従業員の不満が溜まり、従業員と企業との間のトラブルにも発展しかねません。
令和7年4月現在の国の方針としても、カスタマーハラスメントに関する従業員相談窓口の設置などの従業員保護に向けた体制整備を企業に義務付ける法改正を目指すとされています。
また、小売業は一般消費者に向けて広告を出すことや商品内容を表示することが多いと思われますが、その際には景品表示法に抵触していないかどうかに注意する必要が生じます。
さらに、多くの顧客を獲得するためにE Cサイトを活用する場合には、個人情報保護法に基づいて個人情報の管理にも注意しなければなりません。
卸売業であれば、販売先となる他の卸売業者や小売業者が顧客となりますが、例えば、販売先が倒産の危機に陥った場合、売掛金の回収が問題となります。
この売掛金の回収について、売掛金を買い取るファクタリングというサービスを聞いたことがあるかもしれませんが、昨今、その実態は高金利の貸付であるという偽装ファクタリングを行う業者もいるため、注意が必要です。
そのような業者の場合、買取代金が売掛金の金額よりも著しく低額であったり、高額の手数料が引かれてしまいます。
そして、売掛金を買い戻すことなどが契約に含まれており、その業者から高額の金銭の支払いを請求される事態となってしまいます。
次に、商品の仕入れ元などの取引先との間でトラブルが生じることも想定されます。
例えば、仕入れた商品に不具合があったり、契約内容の解釈について取引先の認識と相違があったりすることにより、紛争に発展することがあります。
また、フランチャイズで商売をしているのであれば、本部(フランチャイザー)との間でトラブルが生じることもあります。
フランチャイズに関するトラブルとしては、商品や原材料の仕入れ先の指定に関する問題、中途解約時の違約金トラブル、契約終了後の競業避止義務の問題などが考えられます。
さらに、店舗やテナントを賃借している場合、賃料の増額や賃貸借契約の解除、解約・更新拒絶、原状回復費用などについて賃貸人との間でトラブルが生じることもあります。
想定される法的トラブルは会社の外だけとは限りません。
むしろ会社内部での法的トラブルの方が多いという印象があり、従業員のことで会社が弁護士に相談するということは頻繁にあります。
従業員との間で労働問題に発展した場合に適切に対応する必要があることは言うまでもありませんが、労働問題に発展することのないように法的ポイントを押さえた労務管理を普段から行うことも重要となります。
昨今ではハラスメントに配慮した労働環境の体制整備が法律上企業に義務づけられているため、この点の対策を強化することも必要でしょう。
また、小売業のような在庫商品を抱える企業特有のトラブルとして、従業員による商品などの横領の問題があります。
横領や窃盗の問題が生じた場合、懲戒解雇などの労務上の手続きだけでなく、民事と刑事に関する手続きの対応も検討する必要が生じます。