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企業法務コラム

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ハラスメント防止のために全ての企業に求められる対応

2024.02.16

※2024年2月現在の法律や裁判例に基づいたコラムになります。

 

職場でのパワハラやセクハラ、マタハラを防止するために

パワハラ、セクハラ、マタハラは職場での3大ハラスメントと言われています。

企業の規模に関わらず、どの職場でも起きうるハラスメントです。

したがって、企業としては、この3つのハラスメントを防止することが重要となります。

まず、パワハラについては、いわゆるパワハラ防止法(労働施策総合推進法)において、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものと規定されています。

もっとも、これらの条件は絶対的なものではなく、形式的にこれらの条件に当てはまらなくともハラスメントに当たる可能性があるため、注意が必要です。

次に、セクハラについては、男女雇用機会均等法において、職場での性的な言動に対するその労働者の対応により不利益な労働条件を受けることや(「対価型」)、当該性的言動により労働者の就業環境が害されること(「環境型」)という2種類が想定されています。

そこで、この2種類を念頭にセクハラに該当する待遇や言動が無いかどうかを注意することになります。

最後に、マタハラについては、働く女性が①妊娠・出産に伴う就業制限や産前産後、育児休業などによって業務上の支障が生じることを理由として、解雇や雇い止め、自主退職の強要、配置転換などの不利益や不利な扱いを受けたり、②妊娠・出産に伴い、精神的、身体的な嫌がらせを受けたりすることという2種類が想定されています。

 

パワハラ防止法などによる法規制の強化

パワハラについては、前述のパワハラ防止法が2019年に成立し、企業などの事業主に対するパワハラの防止措置義務が定められました。

パワハラ防止措置の義務については、パワハラ防止法の成立当初は中小企業については努力義務とされていましたが、2022年4月から中小企業を含む全ての事業主に対する正式な義務とされました。

したがって、現在では、企業の規模を問わず、全ての企業はパワハラを防止するための措置を取らなければならないこととなります。

また、セクハラ、マタハラについても、男女雇用機会均等法が企業などの事業主に対して、セクハラやマタハラにより労働者の就業環境が害されることの無いように、必要な体制を整備することなどを求めています。

 

企業に求められる体制の整備とは

前述のとおり、ハラスメントに対する法規制の強化が進められており、全ての企業にハラスメント防止のための体制整備が求められています。

それでは、体制の整備とは、具体的にはどのようなことをすれば良いのでしょうか。厚生労働省の指針も踏まえると、主に以下のような措置が雇用管理上講じられるべきとされています。

 

①ハラスメント防止の方針や規程の作成、社内周知

②社員啓発のための研修等

③適切に対応することのできる相談窓口の設置、社内周知

 

①については、ハラスメント防止に関する規程やガイドラインを作成して社内で周知する方法の他、社内報やポスターなどでもハラスメント防止を呼びかけることが考えられます。

②については、職階別に分けて研修を実施する、社内アンケート調査も併せて行うなど、いくつかの実施方法が考えられます。

③については、社内に相談窓口を設ける方法の他、外部機関へ相談担当窓口の運営を委託するという方法もあります。

当事務所では、①ハラスメント防止規程等の作成、②ハラスメント防止に関する研修、③相談窓口の運営のいずれについても、弁護士が対応することが可能です。

弁護士に協力を求めることにより、法律知識や法律上のポイントに基づいた対応をすることが可能となりますので、ぜひご検討ください。

なお、相談窓口の運営を当事務所へ委託した場合、違法行為などに関する内部通報制度にも併せて対応いたしますので、企業内で自浄作用が働くことも期待できます。


正規労働者と非正規労働者との間で異なる待遇を設ける際の注意点

2023.08.25

 

※2023年8月現在の法律や裁判例に基づいたコラムになります。

 

「同一労働同一賃金」の基本的な考え方

正社員(無期雇用のフルタイム労働者)と非正規労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間で異なる待遇を設ける企業は多いと思われます。

しかしながら、その際、「同一労働同一賃金」の考え方に基づき、不合理な待遇差を設けてはならないとされている点に注意しなければなりません。

正社員と非正規労働者との間の不合理な待遇の相違、差別的取り扱いを解消するというのが、「同一労働同一賃金」の基本的な考え方になります。

「同一労働同一賃金」については、かつて労働契約法で定められていましたが、働き方改革関連法の改正により、パートタイム有期雇用労働法と派遣法で定められることになりました。

これにより、行政指導等の行政上の取り締まりの対象となりました。

 

基本給、賞与、各種手当などについて個別に判断する必要がある

働き方改革関連法の改正の前後いずれにおいても、正社員と非正規労働者との間で不合理な待遇差を設けてはならないとされています。

そして、原則として、基本給や賞与、各種手当などのそれぞれの労働条件について、一つ一つ個別に比較して判断するとされています。

また、「同一労働同一賃金」と呼ばれていますが、賃金だけでなく、福利厚生や休暇などの待遇についても不合理な差を設けてはならないとされています。

それでは、各労働条件を個別に判断するとしても、具体的にはどのように判断すればよいのでしょうか。

厚生労働省が示すガイドラインにおいては、例えば、賞与に関しては、会社の業績等への労働者の貢献度に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならないとされています。

また、例えば、役職手当に関しては、役職の内容に対して支給するものについては、同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならないとされています。

もっとも、ガイドラインを見れば不合理な差異かどうかを簡単に判断できるというものではなく、結局のところ、裁判例の動向も踏まえた上で事例ごとに詳細に判断しなければならないということになります。

なお、定年退職後に嘱託社員などとして同じ企業に再雇用される例が多くありますが、この場合も同一労働同一賃金に配慮する必要があるため、注意しなければなりません。

 

これまでの最高裁裁判例でどのような判断がされているか

・各種手当

最高裁平成30年6月1日判決(ハマキョウレックス事件)においては、例えば、契約社員と正社員の皆勤手当の違いについては、契約社員と正社員の職務内容が同じであり、出勤する者を確保する必要性に差異は無いなどとして、不合理な差異であると判断されました。

他方で、住宅手当の違いについては、契約社員が就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員は転居を伴う配転が予定されており、住宅に要する費用が多額になり得るなどとして、不合理な差異ではないと判断されました。

ここで注意する必要があるのは、皆勤手当の違いはNGで住宅手当の違いはOKであるというような単純な判断ではないということです。

それぞれの企業における各労働者の職務内容や、それぞれの手当の内容や趣旨などを考慮した上で、あくまで個別具体的に判断しなればならないのであり、上記の最高裁判例はその判断の一例に過ぎないということを理解する必要があります。

・基本給

最高裁平成30年6月1日判決(長澤運輸事件)においては、正社員と、定年退職後の嘱託乗務員との基本給の差異について、嘱託乗務員の歩合給や正社員の能率給を合わせて比較すると、その金額差は最大でも約12%にとどまっていること、嘱託乗務員は要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けること、調整給2万円の支給もあることなどの各事情を踏まえ、不合理ではないと判断されました。

・賞与

最高裁令和2年10月13日判決(大阪医科薬科大学事件)においては、正職員とアルバイト職員との職務内容の差や、配置変更範囲の差、正社員登用状況などを踏まえ、アルバイト職員と新卒の正職員との年収差が55%程度にとどまることも考慮した上で、賞与についての正職員とアルバイト職員との違いは不合理とまではいえないと判断されました。

・今後の注目となる裁判例

これまでの最高裁裁判例を見ると、各種手当については不合理であると判断されたものがいくつか見受けられるのに対し、基本給と賞与については不合理でないと判断されたものがほとんどになります。

しかしながら、前述もしたとおり、基本給だからOK、賞与だからOKというものではなく、全ての事例において個別具体的に判断しなければなりません。

2023年8月現在の注目の裁判例として、最高裁令和5年7月20日判決(名古屋自動車学校事件)があります。

この事件では、定年退職後に再雇用された嘱託職員と正職員との待遇差が問題となりました。

各種手当についても争点となっていましたが、基本給と賞与について、名古屋高等裁判所は、正職員を定年退職したときの基本給・賞与と、嘱託職員としての基本給・賞与とを比較して、60%を下回る部分については不合理であると判断していました。

このように、高裁判決は60%を一つの基準として示していました。

ところが、最高裁判所は、基本給の性質や目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が不合理とした高裁判決の判断には誤りがあるとしました。

また、賞与についても、その性質や目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が不合理とした高裁判決の判断には誤りがあるとしました。

最高裁は、上記のような事情について考慮せよという方針を示したのです。

最高裁はこのような判断をもとに、審理を高等裁判所に差し戻すこととしたため、高等裁判所において改めて審理がされることになりました。

高等裁判所が示していた60%という基準が最高裁によって破棄されたため、差し戻し後の高等裁判所でどのような判断がなされるのか、注目されるところです。


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