
IT・情報通信業は、技術の進歩や市場の変化が激しい業界です。ビジネスが急成長する可能性もある一方で、一歩間違えると企業の存続を揺るがしかねない法的トラブルに直面するリスクも潜んでいます。
特にリソースが限られている中小企業においては、事前の法律トラブルの予防(予防法務)が極めて重要です。本コラムでは、IT企業が特に直面しやすい法的リスクとその対策について、弁護士の視点から解説します。
IT業界のシステム開発等において、頻繁に発生するのが「仕様」と「代金回収」をめぐる顧客とのトラブルです。
開発業務がスタートした後に、顧客から「やっぱりこれも追加してほしい」「ここを変更してほしい」といった要望が出ることは珍しくありません。しかし、その際の費用負担や納期の再調整を曖昧にしたまま作業を進めてしまうことが、大きなトラブルの引き金になります。
完成間際になってから「思っていたものと違う」と認識のズレが表面化し、納品を拒否されて代金が支払われない、といった最悪の事態も想定されます。
このようなリスクを回避するには、契約段階で明確な合意内容を形成しておくことが重要になります。どこまでが当初の業務範囲で、どこからが追加費用になるのかなどを契約書や仕様書に明記します。
また、仕様変更時においても、口頭やチャットツールでの合意だけで済ませず、変更合意書などの書面を残しておく方が安全でしょう。
そして、契約書や法的書面については、弁護士の目を通した適切な契約書を用意しておけば、万が一の未払い時にもスムーズな代金回収に繋がります。
IT業界は比較的流動性が高く、人材の入れ替わりが激しい傾向にあります。そのため、在職中の労働問題だけでなく、退職後の社員とのトラブルへの備えが必要です。
特に注意すべきは「競業避止(きょうぎょうひし)」、つまり自社のノウハウを持った社員がライバル企業へ転職したり、独立して同種のビジネスを立ち上げたりする問題です。優秀なエンジニアや営業社員が退職する際、自社の独自の技術ノウハウや顧客情報が流出すれば、企業の利益に致命的な打撃を与えかねません。
このような事態を回避するため、誓約書や契約書を整備しましょう。
雇用契約の締結時だけでなく、退職時にも適切な内容の競業避止に関する誓約書や秘密保持に関する合意書を取り交わしておくことが重要です。ただし、行き過ぎた制限は無効と判断されるリスクもあるため、個別のケースに適した書面であるかどうかを弁護士にチェックしてもらうことをお勧めします。
また、日常的な労務管理として、割増賃金(残業代)の支払いやハラスメント問題などに関し、後から労働問題を引き起こさないようにするため、弁護士に相談しながらトラブルを未然に防ぐ土壌を作りましょう。
システムやアプリの運用、受託開発などを通じて、IT企業は顧客の個人情報や他社の機密データなど、重要度の高い情報を扱う機会が日常的に存在します。
万が一、サイバー攻撃やヒューマンエラーによって大規模な情報漏洩が発生した場合、企業の社会的信用が低下するだけでなく、損害賠償責任を問われる恐れもあります。
また、他社と共同でプロジェクトを進める際、事前の取り決めが甘いと、自社の重要な技術や営業秘密が意図せず流出あるいは模倣されてしまうリスクもあります。
そこで、社内の情報管理については、データ管理に関する規程の策定や、アクセス権限の管理、社員へのデータ取り扱いに関する教育など、体制を構築することが重要になります。
また、 取引先と企業秘密を共有しながら業務を進める場合は、情報を開示する前に秘密保持契約を締結するなどの事前対策を取ることが必要になります。
IT・情報通信業におけるリーガルリスクは、事前の備えがあるかどうかで、万が一の際の見通しや解決までのスピードが大きく変わります。
トラブルが起きてから慌てて弁護士に駆け込むのではなく、「トラブルを起こさないための仕組み(契約書や規程の整備など)」を普段から作っておくこと(予防法務)こそが、企業の持続的な成長を支える盾となります。
「自社の契約書に不安がある」「労務体制を見直したい」などでお悩みの経営者様は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。