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正規労働者と非正規労働者との間で異なる待遇を設ける際の注意点

2023.08.25

 

※2023年8月現在の法律や裁判例に基づいたコラムになります。

 

「同一労働同一賃金」の基本的な考え方

正社員(無期雇用のフルタイム労働者)と非正規労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間で異なる待遇を設ける企業は多いと思われます。

しかしながら、その際、「同一労働同一賃金」の考え方に基づき、不合理な待遇差を設けてはならないとされている点に注意しなければなりません。

正社員と非正規労働者との間の不合理な待遇の相違、差別的取り扱いを解消するというのが、「同一労働同一賃金」の基本的な考え方になります。

「同一労働同一賃金」については、かつて労働契約法で定められていましたが、働き方改革関連法の改正により、パートタイム有期雇用労働法と派遣法で定められることになりました。

これにより、行政指導等の行政上の取り締まりの対象となりました。

 

基本給、賞与、各種手当などについて個別に判断する必要がある

働き方改革関連法の改正の前後いずれにおいても、正社員と非正規労働者との間で不合理な待遇差を設けてはならないとされています。

そして、原則として、基本給や賞与、各種手当などのそれぞれの労働条件について、一つ一つ個別に比較して判断するとされています。

また、「同一労働同一賃金」と呼ばれていますが、賃金だけでなく、福利厚生や休暇などの待遇についても不合理な差を設けてはならないとされています。

それでは、各労働条件を個別に判断するとしても、具体的にはどのように判断すればよいのでしょうか。

厚生労働省が示すガイドラインにおいては、例えば、賞与に関しては、会社の業績等への労働者の貢献度に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならないとされています。

また、例えば、役職手当に関しては、役職の内容に対して支給するものについては、同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならないとされています。

もっとも、ガイドラインを見れば不合理な差異かどうかを簡単に判断できるというものではなく、結局のところ、裁判例の動向も踏まえた上で事例ごとに詳細に判断しなければならないということになります。

なお、定年退職後に嘱託社員などとして同じ企業に再雇用される例が多くありますが、この場合も同一労働同一賃金に配慮する必要があるため、注意しなければなりません。

 

これまでの最高裁裁判例でどのような判断がされているか

・各種手当

最高裁平成30年6月1日判決(ハマキョウレックス事件)においては、例えば、契約社員と正社員の皆勤手当の違いについては、契約社員と正社員の職務内容が同じであり、出勤する者を確保する必要性に差異は無いなどとして、不合理な差異であると判断されました。

他方で、住宅手当の違いについては、契約社員が就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員は転居を伴う配転が予定されており、住宅に要する費用が多額になり得るなどとして、不合理な差異ではないと判断されました。

ここで注意する必要があるのは、皆勤手当の違いはNGで住宅手当の違いはOKであるというような単純な判断ではないということです。

それぞれの企業における各労働者の職務内容や、それぞれの手当の内容や趣旨などを考慮した上で、あくまで個別具体的に判断しなればならないのであり、上記の最高裁判例はその判断の一例に過ぎないということを理解する必要があります。

・基本給

最高裁平成30年6月1日判決(長澤運輸事件)においては、正社員と、定年退職後の嘱託乗務員との基本給の差異について、嘱託乗務員の歩合給や正社員の能率給を合わせて比較すると、その金額差は最大でも約12%にとどまっていること、嘱託乗務員は要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けること、調整給2万円の支給もあることなどの各事情を踏まえ、不合理ではないと判断されました。

・賞与

最高裁令和2年10月13日判決(大阪医科薬科大学事件)においては、正職員とアルバイト職員との職務内容の差や、配置変更範囲の差、正社員登用状況などを踏まえ、アルバイト職員と新卒の正職員との年収差が55%程度にとどまることも考慮した上で、賞与についての正職員とアルバイト職員との違いは不合理とまではいえないと判断されました。

・今後の注目となる裁判例

これまでの最高裁裁判例を見ると、各種手当については不合理であると判断されたものがいくつか見受けられるのに対し、基本給と賞与については不合理でないと判断されたものがほとんどになります。

しかしながら、前述もしたとおり、基本給だからOK、賞与だからOKというものではなく、全ての事例において個別具体的に判断しなければなりません。

2023年8月現在の注目の裁判例として、最高裁令和5年7月20日判決(名古屋自動車学校事件)があります。

この事件では、定年退職後に再雇用された嘱託職員と正職員との待遇差が問題となりました。

各種手当についても争点となっていましたが、基本給と賞与について、名古屋高等裁判所は、正職員を定年退職したときの基本給・賞与と、嘱託職員としての基本給・賞与とを比較して、60%を下回る部分については不合理であると判断していました。

このように、高裁判決は60%を一つの基準として示していました。

ところが、最高裁判所は、基本給の性質や目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が不合理とした高裁判決の判断には誤りがあるとしました。

また、賞与についても、その性質や目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が不合理とした高裁判決の判断には誤りがあるとしました。

最高裁は、上記のような事情について考慮せよという方針を示したのです。

最高裁はこのような判断をもとに、審理を高等裁判所に差し戻すこととしたため、高等裁判所において改めて審理がされることになりました。

高等裁判所が示していた60%という基準が最高裁によって破棄されたため、差し戻し後の高等裁判所でどのような判断がなされるのか、注目されるところです。


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